2008年02月09日

6:激突!

 間近で見ると、トラはさらに大きく見えた。つばさたちはごくりとつばを飲み込み、
低いうなり声を上げてこちらを見ているトラを見つめた。

 つばさは、近くに落ちていた枝を拾い上げ、苦し紛れに振り回した。トラは鼻を
鳴らし、軽く前足を振り上げ、枝をへし折った。少しずつ後ずさりしながら、短く
なった枝をトラに向かって思い切り投げたが、枝はトラをかすめて、むなしく
ポチャリと音を立てて、湖に浮かんだ。一瞬、物音が止み、
心臓の音だけがしたかと思った瞬間、

「ガォーーーーーーーーッ!」
 トラが立ち上がり、前足を広げて、つばさたちに飛びかかった。

「わーーーーーー!」
もうダメだと思ったその時、胸のペンダントが強い光を放ち、
ライオンが飛び出してきた。

 凄まじい戦いだった。鋭い爪や牙を武器にトラとライオンがぶつかり合った。
つばさたちは驚き、逃げることも忘れ、息をのんでその戦いを見つめていた。
 何分経ったのだろう。戦いは、激しさを増しながら続いていた。しかし、
トラもライオンもお互い傷つき、血を流している。そして、2頭の動きが止まった。
緊迫した空気が流れた。その時、

「ヘックション!」
 みらいのくしゃみだ。その声にトラがこちらをチラッと見た。ライオンは
その瞬間を見逃さなかった。勢いよくトラに飛びかかり、
それに反応するかのようにトラも飛びかかる。
すれ違うかのようにして、ライオンとトラは、お互い背を向け立ち止まった。

 力尽きたのはライオンだった。前足を地面に崩し、顔を歪めた。
トラは勝利を確信したようにつばさたちの方に振り返り、低いうなり声を上げた。
 つばさたちは、ズルズルと後ずさり、全身が震えた。しかし、次の瞬間、

ドサッ!

 大きな音を立てて、トラが倒れた。つばさたちは急に力が抜け、
その場に座り込んだ。ヨロヨロとライオンが立ち上がり、つばさたちに近づいてくる。
つばさたちは、その場から動くことが出来なかった。ライオンの体は傷だらけで、
あちらこちらから血が出ている。

「だい…じょう…ぶ…か。」
 何とライオンがしゃべった。つばさは恐る恐る話しかけた。
「ぼっぼっぼ、ぼ、ぼくらの言葉がわかるの?」
「少し…な。ペンダント…の中で…覚え…た。俺の…名は…『じんざ』。」
「ぼっぼくはつばさ。こっこ、こ、こっちは妹のみらいと犬のポチ。」
「ああ…、知って…いる。」
「そっそうなんだ。」
「少し…つかれ…た。…ねる。」
 そう言い終わるとじんざは、その場にうずくまり、大きないびきをかいて寝てしまった。

「たっ助かった~。」
 大きなため息をついて、つばさはみらいを見た。みらいは、まだ目を丸くしている。
 つばさは、おもむろにカバンからバンドエードとタオルを取り出した。タオルを湖で絞り、
じんざの血まみれの体をふいた。傷口のひどいところに、お母さんからもらった
バンドエードを貼ってあげた。しばらくすると、みらいも元気を取り戻し、じんざのために、
ポチと一緒に果物を採りに行っていた。

 地図の『トラ』の文字が消え、再び矢印が浮かび上がっていた。

 何時間かして、大きないびきが止み、じんざが目を覚ました。
「これは…お前が?」
 じんざは、バンドエードに目をやってそう言った。
「ああ、そうだよ。もう大丈夫なの?」
 つばさは、今までのことや街でのこと、この世界でのことを一気にしゃべった。
「すまない…。まだ、うまく…わから…ない。」
 じんざに聞けば、何か分かると思ったが、まだ時間がかかるようだ。しかし、
仲間になって付いてきてくれるように頼むと、じんざは快く受け入れてくれた。
そして、みらいとポチが採ってきた果物をおいしそうに食べた。

 再び、矢印に向かって歩き出すことを決めたつばさたちは、倒れているトラを
避けるようにして歩き出した。その時、茂みがガサッと動いた。
 つばさたちは驚き、身構えた。しかし、茂みから出てきたそれを見て力を抜いた。
トラの赤ちゃんだった。ネコのような白色の赤ちゃんトラは、倒れているトラに近づき、
その大きな体をペロペロとなめた。

「悪い…ことを、した…な。」
 じんざはそうつぶやき、赤ちゃんトラに近づいた。何かを話しかけているようだったが、
つばさたちにはわからなかった。しばらくして、じんざは戻ってきてこう言った。
「こいつも、連れて…いく。」
 つばさたちは笑顔でうなづいた。みらいは赤ちゃんトラを抱き上げ、
「あんた、タマね。」
とうれしそうに言った。つばさは吹き出しそうになったが、ネコのように真っ白な
赤ちゃんトラとみらいの笑顔を見て、微笑んでいた。

 こうして、新しい仲間を2頭加え、つばさたちの先の見えない冒険の旅は、
いよいよ後半に突入する。もちろん、そのことをつばさたちは知るはずもない…。

Posted by KENZO at 07:20│Comments(2)
この記事へのコメント
おもしろいです!
あぁ〜続きが気になる…
Posted by ピーチ at 2008年02月09日 16:20
ピーチさん

ありがとうございます。
物語はいよいよ後半へ。
次回は、箱のなぞが明らかに、そして…。
お楽しみに!
Posted by KENZOKENZO at 2008年02月12日 05:59
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6:激突!
    コメント(2)