2008年02月16日

7:黒マントの人影

 今までと同じように、歩いたり、休んだりを繰り返して、矢印が示す方向に向かって進んだ。
分かったことと言えば、夜の時間が極端に短いことだった。2つの太陽が沈み、夜空が広がるのは
3、4時間ほどだった。すぐに片方の太陽が昇ってくるのだ。

 2日ほど経っただろうか。景色が変わった。今度は、目の前に大きな森、その中心にそびえ立つ
高い山が見えた。矢印はその山頂を目指しているかのようにも見えた。
「よし!」
 つばさは力強くうなづき、山頂を指さした。
「何、かっこつけてんのよ!」
「うるさいなぁ。」
 ポチとじんざはクスッと笑い、つばさたちの後に続いて、森へ急いだ。


 ずいぶん森に近づいたとき、急につばさが立ち止まった。みらいはつばさにぶつかった。
「何よ!」
 みらいはつばさを見上げたが、すぐにその理由が分かった。森の入口に黒いマントに
身を包んだ人影が見えたのだ。つばさは息を飲み込み、少しずつ黒マントの人影に
近づいていった。みらいはタマをギュッと抱きしめ、じんざは、姿勢を低くして身構えている。
ポチはそのじんざの後ろにいた。
 あと10メートルという距離まで近づいたその時、黒マントの人影が動いた。
両手をフードにかけ、その顔を見せた。

「じいちゃん?!」
 つばさは、全速力で駆け寄り、黒いマントに身を包んだおじいさんの胸に飛び込んだ。

「よく、ここまでたどり着いたなぁ。さすがわしの孫じゃわい。」
「おじいちゃん、大変だったのよ。トラに襲われるし、いろんな顔の人はいるし、
それに、それに…。」
 みらいも駆け寄り、目に涙を浮かべながら、今まで起こった出来事を一気に話し出した。
おじいさんは、うんうんとうなづいて、つばさとみらいの話を真剣に聞いた。

「この世界は一体何なの?じいちゃんのくれた宝箱のおかげで、ぼくらは大変な目に
あったんだよ。」
 つばさが最後にこう言うと、おじいさんはゆっくりと話し出した。
「つばさ、みらい、よく聞いておくれ。じいちゃんは旅が大好きなのは知っているね。」
「うん。」

「もう何十年も前になるかのう。ある旅の途中で、わしは、たくさんの子どもたちに
いじめられているカメを助けたんじゃ。するとそのカメが助けてくれたお礼にと
竜宮城というところに連れて行ってくれたんじゃよ。それはそれは美しいところじゃった。
そこにな、乙姫様という、今まで見たこともない、それは美しいお姫様がおったんじゃ。
そのお姫様はカメを助けてくれたお礼に3つの箱をくれたんじゃ。その1つがお前に
プレゼントした箱なんじゃよ。そのお姫様は不思議なことを言ってのう。『赤い箱は
あなたと同じ心を持つ人にあげてください。』と言ったんじゃ。わしも忘れっぽいが、
それだけは覚えとった。だから、お前が生まれて成長する様子を見て、つばさに
あげようと決めたんじゃ。…2つ目の箱は、わしもお前の誕生日に開けてみたよ。
すると中に手紙とこの黒いマントが入っておってなぁ。手紙には何と、さっき
お前たちが話してくれた通りのことが書いてあったんじゃよ。そして、黒いマントをつけたら、
光に包まれてここまで来たというわけじゃ。」

 つばさはすかさず、
「じゃ、これからどうなるのさ、その手紙には何て書いてあったの?」
と切り出した。
「わしにもわからん…。」
 おじいさんはそう言うと、1つの箱に目をやった。
「この箱に答えがあるのかもしれんのう。」

 そう。3つ目の箱がおじいさんの手の中にあった。
「開けてみるとするかのぉ。」
 おじいさんが箱を開けようと、ひもに手をかけたその時、

「ギャーーーーーーーーーーーー!」
 今まで聞いたことのない雄叫びと共に突風がつばさたちを包んだ。
「空を…見ろ!」
 じんざの言葉に一同が空を見上げると、そこには巨大な2頭の竜が猛スピードで
接近している。気付いたときには、漆黒の竜がおじいさんとみらいをわしづかみにし、
空高く舞い上がっていた。金色に光り輝くもう1頭の竜の鋭い爪には、血が付いていた。
2頭の竜はそびえ立つ山の頂上に向かって飛び去り、消えた。

「じんざ!」
 つばさに覆いかぶさるようにしていたじんざの背中は、ザックリと引き裂かれ、
大量の血が流れ出していた。まわりには、おじいさんの身に付けていた黒マントと
みらいが抱えていた1つ目の箱、そして、ビリビリに破れた地図が残されていた。

「じんざ!じんざ!」
 つばさは、じんざの体を大きくゆすり、泣き叫んでいた。うめき声を上げて、
体がピクピク動いている。すぐにバンドエードを貼ったが、あっという間に真っ赤に染まった。
つばさは、目を赤くして泣き続けた。そして、2つ目の太陽が沈み、短い夜がやってきた…。


Posted by KENZO at 07:21│Comments(0)
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7:黒マントの人影
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