2008年01月26日

4:ライオン!

 2時間以上経っただろうか。人影が少なくなり外灯が光り出した。
「あっ、日が沈む…。」
 もう1つの太陽が地平線の向こうに沈んでいく。この世界にも夜があったのだ。
 人影が無くなり、2人は公園のベンチにお互いもたれかかるように座り込んだ。
「どうする?」
「とにかく明るくなるのを待って、ライオンを探そう。こうなったら、やるだけやってみるさ。」
 つばさは、みらいを励ますようにそう言った。2人の言葉が少しずつなくなり、
まぶたが重たくなってきたその時、だしぬけにサイレンの音が鳴った。

「なっ何だ?!」
 2人は飛び起き、周りを見渡した。住宅街の向こうから炎が見えた。
「行ってみよう!」
 そう言って2人は、眠たかったことも忘れ、炎に向かって走り出した。

 2人がその現場に駆けつけた時には、たくさんの人だかりができていた。
そして、炎も激しさを増していた。

「▽◎%¥##ーーーーー!」
「@@、$%&#○■!」
「&*☆ーーー。▽◎%¥#!」

 訳の分からない叫び声が飛び交っていた。家の中には人がいるようだ。
2人はどうすることもできずに、ただ立ちつくし、炎を見上げることしかできなかった。
 突然、黒い影が2人の前を横切った。
「あっライオン!」
 あっという間の出来事だった。1匹のライオンが、ためらいもせずに炎の中に
飛び込んだ。そして、数分後、1人の男の子が助け出された。しかし、ライオンは
炎の中に取り残されたままだった…。2人はやっと出会うことができたライオンを
目の前に、どうすることもできなかった。
 その時、急に胸のペンダントの球が強い光を放ち、光の球が炎の中に飛び込んでいった。

「ウォーーーーーーーーー!」
 ライオンの雄叫びが、夜空に響き渡った。と同時に炎の固まりが、夜空に飛び出し、
金色のライオンの形に姿を変え、空高く走り去っていった。


 2人は、呆然とその様子を見ているだけだった。
 公園に戻り、少し興奮気味の2人は眠ることができなかった。

「『ライオン』って、あのライオンのことなのかなぁ…。どう思う?」
「どう思うって、わかんないよ。」
「だよね。ポチはどう思う?」
「どうって、おいらにだってわかるはずないよ。」
 つばさは、ため息をつきながら、さっき光を放ったペンダントを手に取った。

「わっ、何だこれ?!」
 ペンダントの真ん中にある球の中にライオンが浮かび上がっていたのだ。
「どういうこと?!」
 何がどうなったのか、2人には理解することができなかった。しかし、
地図を見ると再び矢印が浮かび上がり、『ライオン』の文字は消えていた。
急に疲れが2人を遅い、2人はそのままベンチに横になった。

 目を覚ましたときには、すでに一つ目の太陽が空高く昇っていた。
そして、2人は矢印に向かって歩き出した。  

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2008年01月26日

3:街の明かり!

 どのくらい時間が経ったのだろう。2人は休憩しながら、とにかく歩いた。
ドングリのような実を1粒ずつほおばりながら。しばらくすると、何だか少し
暗くなった。
「太陽が1つだけになった…。」
 空を見上げると、2つあった太陽が1つになっていた。夕方のような明るさだ。

「この世界は太陽が沈まないのかなぁ。」
「どうだろう。でも、もう驚かないよ。いちいち驚いてたら、疲れちゃうもん。」
 2人は歩き続けた。今、頼りになるのは地図だけだった。2人は歩き続ける
しかなかったのだ。気が遠くなるような道のりだった。そんな時、
「ワンワンワンワン!」
 ポチが急に吠えだした。

「あっ、明かりだ!」
 疲れてうつむいて歩いていた2人は、ポチの吠える声で顔を上げ、
目の前の街のような灯りに気がついた。
「やった~~~っ!!」
 2人は疲れていたのも忘れて走り出した。あそこに行けば何か分かるかも
知れないという思いがつばさの中に膨らんだ。しかし、この街でどんな出来事が
起こるのか、今のつばさは知るはずもなかった。

 街に着いた2人は、とにかく人を探した。街の様子は、もとの世界と変わらない
ようだ。数分歩き回ると2人の人影を発見した。2人はうれしくなって駆け寄った。
「あの~…。」
 つばさは、その1人に声をかけたが、顔を見て言葉を失った。何と顔が
ネコの顔なのだ。

「○△$#?」
 ネコの顔をした人は、何か訳の分からない言葉を話している。もう1人の顔は
ニワトリの顔だった。その2人は顔を見合わせて、不思議そうな顔をしているよう
だった。つばさとみらいは、ゆっくり後ずさりして、急に振り返ったかと思うと、
一気に駆け出した。
「わーーーーーーーーーーーーーっ!」

 もう、大抵のことでは驚かないと思っていたが、これには2人も驚いた。
「今の見た?」
「うん、見た見た。」
「ネコだよ、ネコ。」
「ニワトリもいた!」
 2人は息を切らしながら、木の陰に隠れるようにして話をした。そっとのぞくと、
ほかにも人影があった。キリン、シマウマ、サル、イヌ、カンガルー、カバ…。
みんな動物の顔だ。中でも、フクロウの顔はすごかった。首が1回転するのだ。
 2人がため息をついていると誰かが近づいてきた。今度は何だと思いながらも、
おそるおそる顔を上げると何と2人と同じ人の顔だった。2人はほっとするのと同時に、
うれしくなって話しかけようとした。しかし、

「%○◎◇、□■$$@?」
 その人もつばさとみらいには理解できない言葉だった。この世界の言葉なのだろうか。
その人は「しゃべれないの?」とでもいうように、両手を広げて首をかしげてその場を去った。

「せっかく人がいたのに、これじゃあ何も分からないよ。」
 つばさはぼやいた。みらいもポチを見つめてつぶやいた。
「動物の顔をした人が歩いて、しゃべってるならポチもしゃべれるといいのにね。」
 ポチはみらいの目を見ていた。

「うん、しゃべれるよ。」
「…。」
「え゛ーーーーーっ!」
 2人は顔を見合わせて、もう一度ポチに視線を集めた。

「何でだよ。何で言ってくれなかったんだよ。」
「だって聞かなかったじゃない。」

 2人は、もう一度顔を見合わせ、お互いのほっぺをつねった。やっぱり、
夢ではないらしい。「あっちの世界でもしゃべってたんだよね。でも、人間には
『ワン』としか聞こえないみたい。こっちに来てからはそうじゃないみたいだね。
まぁ呼ぶときは『ワン』って言ってるんだけど。」 ポチは得意気に話し出した。
しかし、こっちの世界の言葉はよく分からないようだ。違う種類の言葉らしい。
この街に来てから分かったことは、いろんな種類の人間がいること、言葉は
通じないこと、ポチがしゃべることができる世界だと言うことだ。ちなみにポチも
2本足で立つことができるらしいが、4本足で慣れてしまって面倒くさいから
2本足では歩かないらしい。しかし、この先どうしたらよいかわからなくなった。

「あっ。」
 つばさは思い出したように地図を見た。何とそこには、矢印が消え、
『ライオン』の4文字が浮かび上がっていた。
「矢印、消えちゃったね。」
 みらいものぞき込んでいた。
 矢印が無くなり、2人はどこに向かえばよいのか分からなくなった。この不思議な
地図は、『ライオン』の文字を映し出している。

「探そう…。」
 つばさはそうつぶやき、力なく歩き出した。2人はライオンの顔をした人を探すしか
なかった。しかし、ライオンはどこにも見当たらない。
 2人は必死になって探した。  

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2008年01月19日

2:その名はポチ?

 1時間は経っただろうか。歩いても歩いても同じ景色が広がっている。
どのくらい進んだのか、それとも同じ所をぐるぐる回っているだけなのか、
分からなくなってきた。分かっているのは、地図が示す矢印の方向に
進んでいることだけだった。

「お兄ちゃん。…お兄ちゃんってば!」
 みらいは何度もつばさに話しかけたが、つばさはなかなか返事をして
くれなかった。

「お兄ちゃん、何を怒ってるんだろうね、ポチ。」

「ポチ?」
「お前、今、ポチって言った?」
「そうだよ。やっと返事してくれたね。」
 みらいはうれしそうに笑った。
「なんでポチなんだよ。ふつうポチって言ったら犬につける名前だぞ。」
「だって犬だもん。」

「…。」
「えっ!お前かわいい猫って言ってたじゃん!!」
「しょうがないじゃん。あたしもはじめは猫だと思ったんだから。でも犬
 なんだよね~、ポチ。」
「ワン!」
「あ゛~。ワンってほえやがった!」

 何かに苛立っていたつばさも、みらいとのこの会話でいつもの自分を
取り戻していった。このあと2人は、ここはどこなのか、矢印の先には何
があるのかなど、ああでもない、こうでもないと話をしながら先に進んだ。
そして、さらに1時間が経っただろうか。

「あ~あ…。」
 みらいが大きなあくびをした。つばさも何だか眠くなってきた。この世界
は昼間のように明るいが、さっきまでは、家の中にいたはずで、しかも夜
だったことに2人は気づいた。もとの世界では、きっと今頃、真夜中の
はずだ。2人は寝ることに決めたが、ベッドや布団はあるはずもなく、
2人は近くにあった大きな木の下で寝ることにした。都合良く、体より
大きな葉っぱが生えていたので、それを布団の代わりにした。

 2人は10秒も待たずに、深い眠りについた。ポチの耳だけは時折り
ピクッと動いていた。


「…ワン、ワン、ワワン、ワワワン!」
 どのくらい眠っていたのだろう。2人はポチの吠える声で起きあがった。
まだ、明るい。思わず眩しくて手をかざした。しかし、次の瞬間眩しいことも
忘れて空を見上げた。

「2つ?!」
 何と太陽が2つもあったのだ。とにかく、ここはもとの世界ではない。2人は
お互いのほっぺをつまんだ。
「いててててっ。」
 夢でもない。2人は同時にため息をついた。

「んっ?」
 みらいのズボンのすそをポチが引っ張っていた。
「ポチ、どうしたの?何かあったの…、あっあんた何持ってるの?」
 なんとポチの足もとには、たくさんの果物があったのだ。
「あんた、採ってきてくれたの?」
「ポチ、でかした!」

 つばさはポチの頭をゴシゴシとなでた。ポチは少し迷惑そうな顔をしている。
そんなポチにはお構いなしに、つばさとみらいはポチが採ってきてくれた果物を
おいしそうにほおばった。どの果物も見たことのないような色や形をしていた。
しかし、2人は驚かなかった。もう、もとの世界ではないことをしっかり受け入れて
いるようだった。

 見事な食べっぷりで、2人はポチの持ってきた果物をペロリと平らげた。しかし、
ドングリのような実だけは、もしものためにカバンにしまっておいた。

「よし、行こう!」
 2人は声をそろえて立ち上がり、矢印の示す方向に向かって歩き出した。  

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2008年01月12日

1:プロローグ

「おーい。早くこっちに来いよー。」
「まってよー。お兄ちゃん。」

 ある村に、2人の兄妹が家族と一緒に仲良く暮らしていました。兄のつばさは、
気が小さいけど冒険好きで、妹のみらいは、気が強く、冷静に物事を考えるしっか
り者だった。

 ある晴れた夏の日、つばさは10歳の誕生日を迎え、みんなからお祝いしてもらっ
た。彫刻家のお父さんからは、きれいな球の入ったペンダントをもらい、お医者さん
のお母さんからは、どんなケガにも効く、薬草入りのバンドエードをもらった。
「お父さん、お母さん、ありがとう。大切に使うね。」
 つばさは、ペンダントを首にぶら下げ、バンドエードをいつも持ち歩いているカバン
にしまった。
「お兄ちゃん、いいなぁ…。」
 みらいがうらやましそうにつばさを見ていた。すると、
「ほら、みらいにもプレゼントだよ。」
と、お父さんはかわいい動物をみらいに手渡した。
「かわいいねこー。」
 真っ白で小さなその動物は、みらいの目をじっと見ていた。
「これからも2人、仲良くね。」
 お母さんは優しく2人に微笑んだ。


 その夜、つばさはペンダントをニコニコしながら眺めていた。
「きれいな石だなぁ。」
 ペンダントの中心には、綺麗に透き通った球が輝いていた。しばらく眺めていると、
急にあることを思い出した。
「どこにやったかなぁ。」
 つばさはクローゼットに押し込められたおもちゃ箱を引っかき回していた。
「あったー!」
 つばさは、古ぼけた一つの箱を手に持っていた。
『10歳の誕生日が来たら、開けてごらん。』
 5歳の誕生日、旅行好きのおじいちゃんがくれた物だった。おじいちゃんが若かっ
た頃、遠い国で手に入れた物らしい。おじいちゃんは今もどこかに旅に出ている。
つばさは、はやる気持ちを抑えながら、きつく縛り付けられたひもを必死になりなが
ら、10分ほどかけてほどいた。いよいよ、箱のふたに手をかけ、そっと開けようとし
た。

「お兄ちゃーん!」
 勢いよくドアを開け、みらいがねこと一緒に飛び込んできた。つばさはびっくりして、
ベッドの下に転がっていた。
「ノックぐらいしろよ!びっくりするだろ。」
 箱だけははなさずにかかえながら、みらいを怒鳴りつけた。みらいは悪いことをし
たという様子もなく、逆に大事そうに持っている箱を見つけてニヤニヤしている。

「何それ?」
「別に…。」
「ちょうだい!」
「やだね。これはじいちゃんにもらった大事な物なの!」
「じゃあ見るだけ。」
 あまりしつこいので、つばさはみらいと一緒に箱の中を見ることにした。でも実は、
1人で見るのがちょっぴり怖かったのだ。

「さぁ、開けるぞ。」
 つばさは思い切ってふたを開けた…。
 箱の中から光があふれ出し、部屋中が光に包まれた。2人はまぶしくて目が開け
られなかった。
「わーーーーーーーーっ!」


 2人がおそるおそる目を開けると、そこには今まで見たことのない景色が広がっ
ていた。

「こ、ここはどこ?」
 最初に口を開いたのは、みらいだった。つばさは両手で箱を持ったまま、口を半
開きにして、立ちつくしていた。しばらくして我に返ったつばさは、膝を落とした。
箱が手からこぼれ、中からは今にも破れそうなボロボロの紙が出てきた。つばさ
は、呆然としながらも手を伸ばし、その紙をそっと拾い上げた。

「地図?!」
 もう、何が何だか分からなくなってきた。
「じいちゃんは、なんでこの箱をぼくなんかにくれたんだ。一体何のために…。」
 つばさは、箱を蹴り飛ばした。
「せっかくおじいちゃんがくれたのに。」
 それに気づいたみらいは、さっと箱を拾い上げてそう言った。
「お前はこの状況が分からないのか?ここは家の中じゃないんだぞ!」
「見れば分かるわよ。」
 みらいはいつも冷静だった。

「とりあえずどうする?お兄ちゃん。その紙には何て書いてあるの?」
 みらいの落ち着いているのか、何も考えていないのか分からない言葉に、つば
さは少しずつ、落ち着きを取り戻していった。じっとボロボロな紙にかいてある地図
を見ると不思議なことに気づいた。地図の真ん中にある矢印が、常に同じ方向を示
そうとして動くのだ。

「書いてある矢印が動くなんて、どういうこと?」
 みらいも地図をのぞき込んでそう言った。
「とりあえず、行ってみるか…。」
 つばさはそう言うと、地図が示す方向を目指してゆっくりと歩き出した。
「お兄ちゃん待ってよー。」
 みらいは箱をかかえ、ねこといっしょにつばさを追いかけた。こうして2人の何とも
不思議な冒険の旅がはじまったのだ。
  

Posted by KENZO at 09:09Comments(4)

2008年01月12日

まえがき

これをはじめようと思ったのは、何か新しいことをしてみようと思ったから…。

小学校3年生の国語で『サーカスのライオン』という物語が登場します。
そして、そのあと、自分で物語を作ってみましょう。という単元があります。

これからはじまる物語は、子どもたちの見本にしようと書き始めた物語です。
はじめは簡単に…。なんて思っているうちに一枚増え、また一枚と、
結局、原稿用紙60枚を超える大作になってしまいました。

そこで、時間を見つけては、子どもたちに読み聞かせをしてあげることに…。
みんな真剣に聞いてくれて毎時間楽しみにしてくれた子も。

この物語は小学生向けに書いたものですが、
せっかくですのでブログで紹介することにしたのです。

物語が進んでいくと『サーカスのライオン』の一場面が登場します。
知っている方は、それも楽しみにしていて下さい。
ただし、読み疲れてしまうかもしれませんね。

このブログを書くにあたり、著作権協会や教科書出版社に
著作権(引用文)について問い合わせをし、
大丈夫じゃないか。という回答も頂きました。

もちろん、その場面が出てきたときには、改めて紹介するつもりです。

それでは、週1回の連載と言うことで、今日からスタートします。
休日、ちょっとヒマだな、と言う方、そうでない方もお楽しみください。
楽しいかどうかは保証できませんが…。

それでは、【タイトルのない物語】、スタートです。  

Posted by KENZO at 09:01Comments(4)