2008年04月06日

あとがき

【タイトルのない物語】は、いかがでしたか。

終わり方について、子どもたちは「よくわからない。」と
少し不評でした…。

読んだ方はわかったと思いますが、この物語には、
『浦島太郎』や『サーカスのライオン』など、既存の物語を参考に
書き綴られています。
オリジナルの物語を書くのは、とても難しいものです。
はじめは、あるものを参考にして、楽しく書いていくことが
大切なのかなと思います。

そして、自分で読み返してみて、もっとこうすればおもしろくなったとか、
緊張感が出てくるとか、いろんなことを考えていければいいのかなと思います。

そうすることで、物語への興味もわき、いろんな本を手に取り、
様々な表現方法を知り、自分の語彙を増やしていくことになるでしょう。

楽しい物語を書くには、やはり豊富な知識も必要になります。
自分も書いてみて、その難しさや楽しさを感じることができました。


【タイトルのない物語】は、これで終了です。ご愛読(?)、ありがとうございました。

追伸:
子どもたちが一番気にしていたのは、登場人物の姿形のようでした。
時間があれば、絵にしてみるのもなんて思っています。
ただ、竜の姿一つとっても子どもによっていろんな姿を想像していたので、
その想像を壊してしまうのも…とも思っています。


  

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2008年03月30日

13:忘れるもんか!

「…何てことを…。」
 乙姫は膝を床に落とした。そんな姿を見て、つばさたちは事の重大さを知った。
「もっもう戻れないの?」
 みらいは、乙姫に尋ねた。乙姫は力なくうなづき、沈黙の時間が流れた。

「そんなことはありませんぞ、姫様ーーーー!」
 どこからともなく声が聞こえたかと思うと、1匹のカメが飛んできた。この声は
聞いたことがある。そう、洞穴で会った岩だ。
「あの湖を通るのです。」
 乙姫は、ハッとして顔を上げた。
「あの湖って…。」
 つばさが言いかけると、
「わたしと出会った湖ですよ。」
 乙姫はそう言った。
「あの小さな方の湖に飛び込むのです。そうすれば、自分の過去に戻れます。ただし…。」
 乙姫は言葉を止めた。
「ただし…?」
 つばさたちは、声をそろえてそう言うと、
「ただし…、それまでの記憶は全て消えてしまうし、運命が少しずつかわってしまうかもしれません…。」
 乙姫は、そう言い終えると、クルリと向きを変えた。

「わしがお送りいたしますぞ。」
 カメがそう言い添えると、ググッと体が膨らみはじめ、3人が楽々乗れるほどの大きさになった。
「ありがとう。お別れです。」
 乙姫は振り向いて、優しく微笑んだ。

 つばさたちは、カメの背中に乗った。カメの体がフワッと宙に浮き、泳ぐように飛び立った。
 湖に行く間におじいさんは、つばさたちにさらに詳しく話をしてくれた。1つ目の箱の中には、
地図のほかに球が入っていたこと。その球をお父さんに渡し、10歳の誕生日につばさに
渡すように頼んだことなどを。

 数十分後、カメが湖に到着した。トラの姿はなく、代わりに1人のたくましい戦士の姿が見えた。
その戦士は片膝を付き、頭を下げていた。

「さぁ、行くか。」
 おじいさんはそう言うと、2人の肩をギュッと抱きしめた。
 つばさは思い出していた。この世界で起こった不思議な出来事を。
 そして、
「絶対、忘れるもんか!」
 そうつぶやくと、ザブンッと湖に飛び込んだ。

・・・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・



 ある晴れた夏の日、つばさは10歳の誕生日を迎え、みんなからお祝いしてもらった。
「わ~、かっこいいペンダント!」
 つばさは、彫刻家のお父さんからペンダントをもらった。中心にライオンの顔が刻まれているペンダントを。  

Posted by KENZO at 10:40Comments(0)

2008年03月22日

12:タマの正体!

「これで最後だねぇ。」
 そう言い終えると、魔女はゆっくり右手を上げ、人差し指をつばさに向けた。
『もうダメだ!』
 そう思った瞬間、
「ワン、ワン、ワンッ!」
 ポチが魔女の指を食いちぎった。

「ギャーーーーーーーーッ!」
 魔女の悲鳴が響いた。ポチの左足から血は流れていなかった。
それどころか、傷口が見当たらない。気付くとタマが、つばさの
脇腹をなめている。痛みが無くなり、血が止まった。
じんざやポチが蘇った理由はこれだ。魔女の指からは、緑色の血が流れていた。

「やってくれたねぇ。」
 魔女はポチではなく、タマを睨みつけていた。
「だからお前は気に入らないんだよ。乙姫ーーーーーーーーーっ!」

 何と、タマの正体は、あの乙姫だったのだ。つばさとポチは驚いたが、
それどころではない。この状況を何とかしなければならない。
魔女は体を震わせながら、1歩ずつタマに近づいた。タマだけを睨みつけながら。
つばさは思い切って、魔女の体を光の剣で斬りつけたが、切り裂いたのは服だけだった。
そんなつばさを無視して、魔女はタマの目の前まできていた。
左手をかざした魔女の目の前から、タマの姿が消え、1人の女性が現れた。

「何か…言い残すことはないかい…。」
 魔女は声を震わせながら聞いた。
「3つ目の箱…。」
 その女性はそう言うと目を閉じた。
 つばさの頭の中で一瞬のうちにいろんな事が思い出された。魔女の右手が上がり、
中指が女性の胸に向けられた。
「ワン!」
 ポチが勢いよく飛びかかったが、今度は左手であっさりかわされた。そして、
魔女の中指が光りはじめた。

「わかったーーーーーーっ!」
 つばさは、ガラスケースの前に一気に駆け寄り、マントを取るとガラスに押しつけた。
「伏せてーーーっ!」
 その言葉と同時に、光の剣を一気に振り抜いた。
「ガシャーーーーン!!」
 ものすごい音を立てて、ガラスケースが砕け散った。これには魔女も驚き、振り返った。
「じいちゃん、箱!」
 隠し持っていた箱を、つばさは奪うようにつかみ取ると、思い切り開けた。
 一瞬の出来事だった。箱から白い煙が出てきたかと思うと、
魔女の周りを取り囲むようにまとわりついた。つばさは、切り裂かれたマントを素早くまとうと、
一気に魔女に駆け寄った。

「やーーーーーーーーーーーっ!」
 力一杯振り抜いた光の剣が、魔女の体を真っ二つにした。
 魔女の体は、音も立てずに床に転がった。


 しばらく時間が止まったかのように、誰一人動かなかった。

「ありがとう!つばさくん。」
 最初に口を開いたのは、タマの代わりに現れた美しい女性だった。
「わたしは乙姫です。久しぶりですね、ひかるさん…でしたよね。」
 乙姫は、おじいさんを見て、優しく微笑んだ。

「キュ~。」
 黒と金のかわいいタツノオトシゴが小さな翼をパタパタと羽ばたかせて、
乙姫に近づいてきた。気付くと、ヨロヨロと立ち上がるじんざの姿もあった。
「みらい、じいちゃん!」
 我に返ったつばさは、2人に駆け寄り、抱き合った。
「つばさ、よくやったのぉ。ガラスの囲いが光を反射したのを見て、もうダメかと思ったわい。」
「うん。理科の勉強を思い出したんだ。黒色は光を通さないから、もしかしてって思って…。」
「うん。うん。」
 おじいさんは、優しくうなづいた。みらいもおじいさんの腕の中で、つばさを誇らしげに見ていた。

 乙姫は、これまでの出来事、魔女のこと、3つの箱のことをわかりやすく、
まとめて話をしてくれた。
 そして、全てを話し終えると、
「お別れですね。本当にありがとう。」
と一言告げ、奥にある大きな鏡を指さした。

「ここを通れば、もとの世界に帰れますよ。」
 つばさは、光の剣を乙姫に手渡した。
「じんざはどうするの?」
 つばさは、じんざを見つめた。
「わたしか?もうサーカスには戻れない。乙姫様さえよければ、ここにいるよ。」
 じんざは乙姫を見てこう言った。乙姫は優しくうなづいた。

「さぁ、行くか。」
 おじいさんは、2人の肩をポンと叩き、鏡に向かって、ゆっくり歩き出した。
その時、鏡が一瞬光ったように見えたかと思うと、

「ガシャーーーーン!」
 大きな音を立てて、鏡が粉々に砕けた。一同が振り返ると、
半分になった体を引きづり上げ、右手を伸ばす魔女がいた。
魔女は薄気味悪くニヤリと笑みを浮かべ、バタリと息絶えた。  

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2008年03月15日

11:魔女現る!

 城には大きな扉があった。つばさたちは、その前に立っている。
「じんざ、どうして?」
「さぁな。気付いたら無くなっていた。こいつのおかげかもな。」
 じんざは、立派なたてがみにしがみついているタマをチラッと見た。
じんざの言葉はだいぶ伝わりやすくなっていた。

「そのマント、すごいね。」
「ああ、急がねばと思ったら、体が宙に浮いたのだ。あとは、
ここまでひとっ飛びだった。」
 じんざは、鼻を鳴らした。

「さぁ、話は後だ。急ごう、竜が来る。」
 つばさは、そう言い終わると扉に向き直った。すると、
ギーーーーっという音を立てて、扉が独りでに開いた。
つばさたちは導かれるように城の中に入っていた。

「あーーーーーーっ!」
 つばさは、何かを発見した。みらいとおじいさんの2人だった。
「お兄ちゃんーっ!」「つばさー!」
「みらいーーーーっ!じいちゃーーーーん!」
 つばさは、あわてて駆け寄ったが、何かにぶつかって、はじき飛ばされた。
「なっ何だ?」
 よく見てみると、2人はガラスケースのようなものに、閉じこめられている。

「みらい、じいちゃん、伏せて!」
 そう言って、2人が伏せるのを確認すると、つばさは光の剣を力強く振った。
光の矢は、2人に一直線に飛んでいった。これで助けられると思った瞬間、
光の矢はガラスケースのようなものに反射されて、今度はつばさめがけて飛んできた。
 つばさは、間一髪でかわしたが、その先にあった大きな扉が粉々に砕け散った。
その後も剣で斬りつけたり、じんざが爪を立てたり、体当たりしてもびくともしなかった。


「クックックックック…。」
 どこからともなく、薄気味悪い笑い声が城の中に響いた。一同は、
その声の先に視線を集めた。そこには、全身紫色の衣装に身を包み、
見るからに意地の悪そうな顔をしたおばあさんがいた。

『魔法使いだ。』
 そうつばさは直感したが、声には出さなかった。
「わたしは、魔女さ。」
 魔女は自分から話し出した。
「あっああ。カメさんから聞いたよ。」
「あ~ら、会ったのかい。岩にしてやったはずだけど…。まぁいいさ。
ここの姫様はちょっと生意気だったから…。」

 そう言いかけたとき、じんざが一瞬の隙を狙って、魔女に襲いかかった。
魔女はあわてることなく、左手をかざした。左手が緑色の光を放ったかと思うと、
じんざの姿が消え、1匹のネズミが現れた。魔女はネズミを一蹴し、
「勝手に動くからだよ!」
と声をあらげた。黒いマントがハラハラとつばさの前に舞い降りた。
つばさは素早くマントを拾い上げようとしたが、動くのをやめた。とにかく、
みらいとおじいさんは無事だ。今は冷静に様子をうかがおうと決めた。
魔女は、なおも話を続けた。

「あの竜たちはどうだった?強かったろ、えっ?まぁしかし、お前さん、
なかなかおもしろいものを持ってるね。…あと、その『マント』もね。」
 魔女はにやりと笑い、つばさの持っている光の剣と目の前のマントをチラリと見た。
『ヤバイ…』
 つばさは、心の中でつぶやいた。額からは一筋の汗が流れている。その時だった。
「こっち、こっち!」

 ポチが急に叫ぶようにして、走り出した。
「動くなって言ったろーっ!」
 魔女は、ポチめがけて左手をかざした。しかし、ポチの素早い動きで
的が絞れずにいた。ポチは素早く動きながら、つばさに目をやり、
チラチラとマントに視線を送っている。
『そうか!』
 つばさは、声には出さなかったが、ポチの突然の行動の意味を理解した。
そして、手を伸ばしかけたとき、

「ちっ、うっとうしい犬だねぇ。」
 魔女は面倒くさそうにそう言うと、今度は右手をポチの方に向けた。
一瞬、指先が光ったように見えたと思った瞬間、5本の光の矢がポチめがけて放たれた。
5本のうちの1本がポチの左足に命中した。あっという間の出来事に
つばさは動くことができず、ポチの作ったチャンスを無駄にした。
ポチの足からは大量の血が流れている。

「さぁて、邪魔者が減ってきたねぇ。」
 魔女は、随分うれしそうに話している。笑顔の薄気味悪さが増した。
「おやっ?あんた、そんなところにいたのかい?」
 言葉の意味は分からなかったが、一瞬、つばさから視線がはずれた。
今度はそれを見逃さなかった。つばさは、転がるようにして、
マントをわしづかみ、光の剣を魔女に向けて一振りした。

「生意気だねぇ!」
 紫色の服は引き裂かれたが、光の矢は魔女の体をスルリと通り抜けた。
魔女はすぐさま右手をかざした。5本の光の矢は、つばさをとらえることは
できなかった。マントを身につけたつばさの動きは風のようだった。
つばさは、何回か魔女を斬りつけたが、その度に、光の剣は魔女の体をスルリと抜けた。

 なおも右手をかざす魔女の光の矢の1本がみらいとおじいさんに向けて飛んでいった。
しかし、バチンと音を立てて反射した。何と運が悪いのであろう。
その1本がつばさをとらえた。つばさの左の脇腹から血が噴き出した。
つばさはちょうど、タマの目の前で倒れた。  

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2008年03月08日

10:しゃべる岩!

「出口か?」
 つばさは、光の方向に急いだ。これで外に出られる。
 そうっと顔を出すと、2頭の竜が頭上に飛び回っていた。つばさはあわてて
頭を引っ込めた。竜たちには気付かれていない。もう1度顔を出し、上を見上げると、
頂上まではあと100メートルほどという所まで来ていた。

「あっ!」
 思わず大きな声が出た。つばさは、またあわてて頭を引っ込めた。
「何か見えたの?」
「ああ。あの竜たち…。それから頂上が見えた。…そして、お城みたいなものが…。」
 つばさが声を上げた理由はそれだった。何と山の頂上にはお城が建っていたのだ。
つばさは腕を組み、何か考えるように歩き回った。
「どうしたのさ。」
「これからどうするか、考えてんの。」
 つばさはそう言って、しばらく歩き回った。

「いて!」「イテ。」
 つばさは何かにつまづいた。
「何でポチまで痛がるのさ。」
「オイラ何も言っちゃいないよ。」
 つばさが足元に目をやると、岩がゴソッと動いた気がした。つばさは剣を構えた。
「どうしたのさ。」
 ポチは何が起こったのか分からなかった。

ガタッ!

 今度は間違いなく岩が動いた。それは、ポチにも確認できた。
つばさの右手に力が入る。すると、
「そこに…誰か…いるのかい?」
 優しい声が聞こえた。岩から聞こえる。つばさは力を抜いた。なおも岩はしゃべった。
「誰かいるなら…返事をしておくれ。」
「ああ、いるよ。」
 つばさは、岩に答えた。
「ああ、その声は…人間かい。この世界のものじゃ…ないね。」
 岩は、つばさたちの理解できる言葉で話しかけている。

「もしかして…その声…、以前わしを助けてくれた…人間かい?いや…それは
もう…何十年か前の…話だ。その子ども…、それとも…そのまた子どもか…?」
 どこかで、聞いたような気がした。そう、おじいさんから聞いた話に似ている。
つばさは問いかけた。

「あなたは…、カメ?」
「そうとも。今はこんな姿じゃがな…。ある日、1人の魔法使いが…この世界に
やってきて…乙姫様を…。城のものたちも…姿を変えられて…しもうた…。
わしも…こんな姿に…。何とか…、ここまで逃げて…来たものの、
完全に岩となり…、動けなくなってしまったと…いうわけじゃ。ところで…、
お前さん…、もしかして光の剣を…持っておるか?」
「持ってるよ。」
 つばさは右手に握りしめられている剣を見つめた。

「そうかぁ。乙姫様の…予言は、当たって…おったんじゃなぁ。」
「予言?!」
「そうとも…。以前わしを助けて…くれた人間に、3つの箱を…渡したのも、
そのためじゃ。いずれ、悪の化身が…この世界に…やってくる。
この世界を…救えるのは、人間界の者…。その者は、光の剣を…持って、
必ず…現れるだろうと…。」

「ぼっぼくのこと?」
 つばさは、驚いた。岩は話を続けた。
「マントは…ないのか?あのマントは…、乙姫様の大切な…マントじゃ。
あれがあれば、竜宮城まで…、あっという間の…はずじゃが…。」
「えっ?」
 マントはじんざにかけてあげた。ここにはない。つばさは、
これまでのことを岩に語った。

「そうかぁ。それは大変な…道のりじゃったのぉ。…あの竜は
乙姫様を…お守りする、タツノオトシゴたちじゃな…。わしも
動けられたら…、助けてやれるのじゃが…。」
 岩は、力なくつぶやいた。

「ギャーーーーーー!」
 洞穴の出口で、金色の目が光った。
「見つかった!」
 つばさは、光の剣を一振りした。光の矢は、簡単にかわされた。
2頭の竜は、つばさたちが出てくるのを待ちかまえている。
「くそっ!」
 つばさは、そう言葉を吐き捨てた。その時、

「ガォーーーーーーー!」
 聞いたことのある雄叫び。間違いない、じんざだ。ポチが顔を出し、
外を見ると、何とじんざが黒いマントをなびかせ、空を走るように飛んでいた。
「わーーーっ!」
 じんざは、あっという間に洞穴に飛び込んできた。そして、
「乗れ、つばさ!」
 じんざは体勢を低くしてこう叫んだ。つばさとポチは反射的にじんざの
背中に飛び乗った。「頼んだぞ!」
 岩は力強く言った。つばさは小さくうなづいた。つばさは、剣を一振りし、
じんざは光の矢とともに、洞穴を飛び出した。じんざは、風のように空を
駆け抜けた。2頭の竜はそのスピードに付いてくることができなかった。
気がつくとつばさたちは、山頂の城の前に立っていた。  

Posted by KENZO at 06:27Comments(2)

2008年03月01日

9:山頂をめざして!

 山の麓にたどり着くのに30分とかからなかった。つばさとポチは
息を切らしていたが、疲れは感じなかった。

「高いなぁ…。」
 つばさとポチは口をそろえて言った。
「登るしかないね。」
「ああ。」
 その山は、山というより塔といった方がふさわしく、細長くそびえ
立っていた。頂上は雲の上にかすんで見える。

「あっ!」
 つばさは頂上近くでグルグルと飛び回っている2つの影を発見した。
1つは黒、もう1つは金に光り輝いている。竜たちだ。
「ねぇ、あれ!」
 ポチの声に、つばさがふと目をやると、目の前に階段らしきものがあった。
その階段は、ぐるりと山を取り囲み、頂上まで続いているようだった。
つばさとポチは顔を見合わせてうなづき、階段へと向かった。


 1つ目の太陽が沈みかけた頃、つばさとポチは山の中腹まで登っていた。
さすがに一気に登っていくのはつらい。つばさたちは一息ついた。
「みらいもじいちゃんも無事なのかなぁ。」
「そう祈るしかないね。」
「…とにかく、こいつがあれば何とかなるかもしれない…。」
 つばさは右手に握りしめられた光の剣を見つめた。その時、

「ギャーーーーーーーー!」
 忘れもしない、あの恐ろしい雄叫びとともに突風がつばさたちを襲った。
漆黒の竜だ。つばさは突然の出来事に思わず光の剣を一振りしていた。
すると、剣から光の矢が竜めがけて一直線に飛び出した。光の矢は、
竜の頭をかすめた。それに驚いた竜は近づくのをやめ、一定の距離を保って、
つばさたちを睨みつけた。

「やるじゃん!」
「まっまぐれだよ。」
 つばさも驚いていた。しかし、これで竜もうかつに近寄れない。しばらく
睨み合いが続くと思われたその時、竜が口を大きく開けた。
「…何だ?」

 次の瞬間、竜の口から炎の球が飛び出した。
「ちょっと、ちょっと!」
 つばさたちは、ぐるりと階段を駆け下りた。炎の球は階段に直撃し、
階段がドロリと溶けた。
「それは反則でしょ!」
 お互い様である。竜はなおも炎の球を吐き出し、つばさとポチは全速力で逃げ回った。

「つばさ!あそこ!」
 登っているときは気付かなかったが、小さな洞穴があった。
「せーのー。」
 つばさとポチは、洞穴めがけて滑り込んだ。洞穴の中は、真っ暗だったが、
光の剣のおかげでかすかに見える。竜が入り込むスペースはない。
ポチがピョコッと顔をのぞかせると竜は再び空高く舞い上がっていた。

「ふーーーーーー。」
 長く、大きなため息をつき、つばさとポチは座り込んだ。
「これからどうする?」
「どうするって言われても、行くしかないでしょ。」
「でも、あれは?」
 ポチは再び顔を出し、竜をチョイチョイと指さした。つばさたちは黙り込んだ。

 しばらくすると、目が慣れてきたのか、光の剣の輝きが増したのか、
洞穴の中がぼんやりと見えてきた。
「どこまで続いてるんだろう…。」
 洞穴の奥は真っ暗で、先はまるで見えない。
「行ってみちゃう?」
 ポチの言葉に、竜よりはましかと思い、つばさは奥に入っていくことに決めた。
光の剣がランプの代わりとなった。

 洞穴は、軽い上り坂のようだ。所々、10メートル程垂直に登らなければいけない
ところもあったが、ありがたいことに道は一本道だった。
湧き水が流れているところもあり、つばさたちは喉をうるおした。

 1時間ほど歩いただろうか。目の前に光が見えた。
  

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2008年02月23日

8:光!

 つばさは、じんざの隣でどうすることもできずに、座り込んでいた。
すでに1つ目の太陽が地平線の向こうに顔を出そうとしている。
「ん?」
 誰かが服のすそを引っ張っていた。ポチとタマだ。ポチは散らばっていた
地図やマントや箱を集めてくれていた。

「元気出そうぜ!」
 ポチはつばさの顔をペロペロとなめた。タマはじんざに寄り添うように
しゃがみこんだ。じんざに動く気配はなかった。つばさはしばらく
考え込むかのように押し黙っていたが、何かを決心したかのように、
スクッと立ち上がった。そして、
「行こう!」
と力強く言った。
「そうこなくっちゃ!」
 つばさは、箱とマントだけを拾い上げた。
「地図はどうする?」
 ポチが拾ってきてくれた地図に目をやったが、地図は真っ白になっていた。
「これじゃ、持っていってもしょうがないか。」
 ポチはポツリとつぶやいた。つばさは、黒マントをバサッと広げ、
もうピクリとも動かないじんざにかぶせた。

「行ってくるね。」
 そうじんざに語りかけるように言うと、くるりと向きを変え、森の中に入っていった。
それに続いてポチも森の中に姿を消した。しかし、タマはじんざのそばから離れようとはしなかった。


 森の中は、夜のように暗かった。生い茂った葉で、太陽の光が届かないためだ。
さらにやっかいなのは、目指すべき山頂がまるで見えないことだ。つばさは、
自分が真っ直ぐに進んでいることだけを信じて歩き続けた。しばらくして、ポチが足を止めた。

「さっきから同じ所を歩いてないかい?」
 つばさもそう感じていた。しかし、今までの道のりもそうだったと自分に言い聞かせて、
「もう少し行ってみよう!」
とポチに言った。その言葉に力強さはなかった。つばさは、持っていた箱を岩の上に置いた。
「これでわかるさ。」
 そう言って、見えない山頂を目指して、再び歩き出した。

 不安は見事に的中した。つばさたちの目の前にあの箱が現れたのだった。
つばさは小さく舌打ちして、今度は別の方向に歩き出した。しかし、
数十分後、またこの場所に戻ってきた。
「やっぱり、地図がないのは痛いなぁ。」
 ポチが冷静につぶやいた。つばさの手は震えていた。拳をギュッと握りしめたかと思うと
「くそっ!」
という言葉とともに赤い箱を思い切り蹴り飛ばした。箱は鈍い音を立てて壊れてしまった。

「そう苛立つなよ。おいらだって同じ気持ちさ。とにかく、これからどうするかを考えようぜ。」
 つばさは、ポチにそう言われて、この世界に来たときのことを思い出した。
怒っても、苛立っても何も解決しない。冷静になって考えてみること、
行動してみることを。だが、みらいとおじいさんが連れ去られ、じんざもいなくなった今、
焦る気持ちはなかなかおさまらなかった。特にあの竜が頭から離れないのだ。
2人は今、どうなっているのか。無事なのか、それとも…。そんなことを考えている間にも、
時間は無情にも過ぎていった。

 つばさは、自分が蹴り飛ばして壊してしまった箱を拾い上げた。ふたは今にも
取れてしまいそうにぶら下がっている。
「ん?」
 そのふたの内側に目が止まった。ふたの隙間に何か見える。何とふたが二重に
なっていたのだ。つばさは蹴り飛ばしたことでズレたのだった。

「何かあったのかい?」
 ポチがつばさが何かゴソゴソやっているのに気付いた。
「なっ何だ、これ?」
 ふたの中から、短い剣のようなものが出てきた。それにしても持つところに比べて、
刃の部分が短すぎる。これでは武器として使えそうにない。それにもう一つ、
持つところには穴が空いているのだ。まるで何かの球が入るかのように…。

「…?!」
 つばさは胸のペンダントに目をやった。球の大きさは、この穴とほぼ同じ大きさだ。
そして、じんざと出会うことになった不思議な出来事が、つばさの頭の中をよぎった。
何か起こるかも知れない。しかも良いことが。つばさはわずかな希望を抱いて、
ペンダントに埋め込まれた球を無理矢理取り外した。そして、そのまま剣に球を押し込んだ。

 その瞬間、球が輝きだし、短かった刃から光の刃が伸びてきた。つばさは驚いて
声も出せなかったが、両手で剣をしっかり握りしめていた。剣は輝きを増し続け、
その輝きが最高潮に達したかと思ったその時、

「わーーーーーーーーっ!」
 刃の先から光の矢が飛び出し、森を突き破って、山頂までの一本道を造り出した。

「すっ、すっげーーー。」
 ポチは目を丸くして言った。これで道は開けた。つばさは剣を片手に、
山頂目指して一気に駆け出した。ポチはその後を必死に追いかけた。
光の矢のおかげで山頂までは一直線だった。目の前の木々や枝葉を光の剣で切り裂き、
ただただ真っ直ぐに進んだ。
『待ってろよ!』
 つばさは、心の中でつぶやき、不気味にそびえ立つ山を睨みつけていた。  

Posted by KENZO at 06:52Comments(0)

2008年02月16日

7:黒マントの人影

 今までと同じように、歩いたり、休んだりを繰り返して、矢印が示す方向に向かって進んだ。
分かったことと言えば、夜の時間が極端に短いことだった。2つの太陽が沈み、夜空が広がるのは
3、4時間ほどだった。すぐに片方の太陽が昇ってくるのだ。

 2日ほど経っただろうか。景色が変わった。今度は、目の前に大きな森、その中心にそびえ立つ
高い山が見えた。矢印はその山頂を目指しているかのようにも見えた。
「よし!」
 つばさは力強くうなづき、山頂を指さした。
「何、かっこつけてんのよ!」
「うるさいなぁ。」
 ポチとじんざはクスッと笑い、つばさたちの後に続いて、森へ急いだ。


 ずいぶん森に近づいたとき、急につばさが立ち止まった。みらいはつばさにぶつかった。
「何よ!」
 みらいはつばさを見上げたが、すぐにその理由が分かった。森の入口に黒いマントに
身を包んだ人影が見えたのだ。つばさは息を飲み込み、少しずつ黒マントの人影に
近づいていった。みらいはタマをギュッと抱きしめ、じんざは、姿勢を低くして身構えている。
ポチはそのじんざの後ろにいた。
 あと10メートルという距離まで近づいたその時、黒マントの人影が動いた。
両手をフードにかけ、その顔を見せた。

「じいちゃん?!」
 つばさは、全速力で駆け寄り、黒いマントに身を包んだおじいさんの胸に飛び込んだ。

「よく、ここまでたどり着いたなぁ。さすがわしの孫じゃわい。」
「おじいちゃん、大変だったのよ。トラに襲われるし、いろんな顔の人はいるし、
それに、それに…。」
 みらいも駆け寄り、目に涙を浮かべながら、今まで起こった出来事を一気に話し出した。
おじいさんは、うんうんとうなづいて、つばさとみらいの話を真剣に聞いた。

「この世界は一体何なの?じいちゃんのくれた宝箱のおかげで、ぼくらは大変な目に
あったんだよ。」
 つばさが最後にこう言うと、おじいさんはゆっくりと話し出した。
「つばさ、みらい、よく聞いておくれ。じいちゃんは旅が大好きなのは知っているね。」
「うん。」

「もう何十年も前になるかのう。ある旅の途中で、わしは、たくさんの子どもたちに
いじめられているカメを助けたんじゃ。するとそのカメが助けてくれたお礼にと
竜宮城というところに連れて行ってくれたんじゃよ。それはそれは美しいところじゃった。
そこにな、乙姫様という、今まで見たこともない、それは美しいお姫様がおったんじゃ。
そのお姫様はカメを助けてくれたお礼に3つの箱をくれたんじゃ。その1つがお前に
プレゼントした箱なんじゃよ。そのお姫様は不思議なことを言ってのう。『赤い箱は
あなたと同じ心を持つ人にあげてください。』と言ったんじゃ。わしも忘れっぽいが、
それだけは覚えとった。だから、お前が生まれて成長する様子を見て、つばさに
あげようと決めたんじゃ。…2つ目の箱は、わしもお前の誕生日に開けてみたよ。
すると中に手紙とこの黒いマントが入っておってなぁ。手紙には何と、さっき
お前たちが話してくれた通りのことが書いてあったんじゃよ。そして、黒いマントをつけたら、
光に包まれてここまで来たというわけじゃ。」

 つばさはすかさず、
「じゃ、これからどうなるのさ、その手紙には何て書いてあったの?」
と切り出した。
「わしにもわからん…。」
 おじいさんはそう言うと、1つの箱に目をやった。
「この箱に答えがあるのかもしれんのう。」

 そう。3つ目の箱がおじいさんの手の中にあった。
「開けてみるとするかのぉ。」
 おじいさんが箱を開けようと、ひもに手をかけたその時、

「ギャーーーーーーーーーーーー!」
 今まで聞いたことのない雄叫びと共に突風がつばさたちを包んだ。
「空を…見ろ!」
 じんざの言葉に一同が空を見上げると、そこには巨大な2頭の竜が猛スピードで
接近している。気付いたときには、漆黒の竜がおじいさんとみらいをわしづかみにし、
空高く舞い上がっていた。金色に光り輝くもう1頭の竜の鋭い爪には、血が付いていた。
2頭の竜はそびえ立つ山の頂上に向かって飛び去り、消えた。

「じんざ!」
 つばさに覆いかぶさるようにしていたじんざの背中は、ザックリと引き裂かれ、
大量の血が流れ出していた。まわりには、おじいさんの身に付けていた黒マントと
みらいが抱えていた1つ目の箱、そして、ビリビリに破れた地図が残されていた。

「じんざ!じんざ!」
 つばさは、じんざの体を大きくゆすり、泣き叫んでいた。うめき声を上げて、
体がピクピク動いている。すぐにバンドエードを貼ったが、あっという間に真っ赤に染まった。
つばさは、目を赤くして泣き続けた。そして、2つ目の太陽が沈み、短い夜がやってきた…。

  

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2008年02月09日

6:激突!

 間近で見ると、トラはさらに大きく見えた。つばさたちはごくりとつばを飲み込み、
低いうなり声を上げてこちらを見ているトラを見つめた。

 つばさは、近くに落ちていた枝を拾い上げ、苦し紛れに振り回した。トラは鼻を
鳴らし、軽く前足を振り上げ、枝をへし折った。少しずつ後ずさりしながら、短く
なった枝をトラに向かって思い切り投げたが、枝はトラをかすめて、むなしく
ポチャリと音を立てて、湖に浮かんだ。一瞬、物音が止み、
心臓の音だけがしたかと思った瞬間、

「ガォーーーーーーーーッ!」
 トラが立ち上がり、前足を広げて、つばさたちに飛びかかった。

「わーーーーーー!」
もうダメだと思ったその時、胸のペンダントが強い光を放ち、
ライオンが飛び出してきた。

 凄まじい戦いだった。鋭い爪や牙を武器にトラとライオンがぶつかり合った。
つばさたちは驚き、逃げることも忘れ、息をのんでその戦いを見つめていた。
 何分経ったのだろう。戦いは、激しさを増しながら続いていた。しかし、
トラもライオンもお互い傷つき、血を流している。そして、2頭の動きが止まった。
緊迫した空気が流れた。その時、

「ヘックション!」
 みらいのくしゃみだ。その声にトラがこちらをチラッと見た。ライオンは
その瞬間を見逃さなかった。勢いよくトラに飛びかかり、
それに反応するかのようにトラも飛びかかる。
すれ違うかのようにして、ライオンとトラは、お互い背を向け立ち止まった。

 力尽きたのはライオンだった。前足を地面に崩し、顔を歪めた。
トラは勝利を確信したようにつばさたちの方に振り返り、低いうなり声を上げた。
 つばさたちは、ズルズルと後ずさり、全身が震えた。しかし、次の瞬間、

ドサッ!

 大きな音を立てて、トラが倒れた。つばさたちは急に力が抜け、
その場に座り込んだ。ヨロヨロとライオンが立ち上がり、つばさたちに近づいてくる。
つばさたちは、その場から動くことが出来なかった。ライオンの体は傷だらけで、
あちらこちらから血が出ている。

「だい…じょう…ぶ…か。」
 何とライオンがしゃべった。つばさは恐る恐る話しかけた。
「ぼっぼっぼ、ぼ、ぼくらの言葉がわかるの?」
「少し…な。ペンダント…の中で…覚え…た。俺の…名は…『じんざ』。」
「ぼっぼくはつばさ。こっこ、こ、こっちは妹のみらいと犬のポチ。」
「ああ…、知って…いる。」
「そっそうなんだ。」
「少し…つかれ…た。…ねる。」
 そう言い終わるとじんざは、その場にうずくまり、大きないびきをかいて寝てしまった。

「たっ助かった~。」
 大きなため息をついて、つばさはみらいを見た。みらいは、まだ目を丸くしている。
 つばさは、おもむろにカバンからバンドエードとタオルを取り出した。タオルを湖で絞り、
じんざの血まみれの体をふいた。傷口のひどいところに、お母さんからもらった
バンドエードを貼ってあげた。しばらくすると、みらいも元気を取り戻し、じんざのために、
ポチと一緒に果物を採りに行っていた。

 地図の『トラ』の文字が消え、再び矢印が浮かび上がっていた。

 何時間かして、大きないびきが止み、じんざが目を覚ました。
「これは…お前が?」
 じんざは、バンドエードに目をやってそう言った。
「ああ、そうだよ。もう大丈夫なの?」
 つばさは、今までのことや街でのこと、この世界でのことを一気にしゃべった。
「すまない…。まだ、うまく…わから…ない。」
 じんざに聞けば、何か分かると思ったが、まだ時間がかかるようだ。しかし、
仲間になって付いてきてくれるように頼むと、じんざは快く受け入れてくれた。
そして、みらいとポチが採ってきた果物をおいしそうに食べた。

 再び、矢印に向かって歩き出すことを決めたつばさたちは、倒れているトラを
避けるようにして歩き出した。その時、茂みがガサッと動いた。
 つばさたちは驚き、身構えた。しかし、茂みから出てきたそれを見て力を抜いた。
トラの赤ちゃんだった。ネコのような白色の赤ちゃんトラは、倒れているトラに近づき、
その大きな体をペロペロとなめた。

「悪い…ことを、した…な。」
 じんざはそうつぶやき、赤ちゃんトラに近づいた。何かを話しかけているようだったが、
つばさたちにはわからなかった。しばらくして、じんざは戻ってきてこう言った。
「こいつも、連れて…いく。」
 つばさたちは笑顔でうなづいた。みらいは赤ちゃんトラを抱き上げ、
「あんた、タマね。」
とうれしそうに言った。つばさは吹き出しそうになったが、ネコのように真っ白な
赤ちゃんトラとみらいの笑顔を見て、微笑んでいた。

 こうして、新しい仲間を2頭加え、つばさたちの先の見えない冒険の旅は、
いよいよ後半に突入する。もちろん、そのことをつばさたちは知るはずもない…。  

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2008年02月02日

5:2つの湖

 不思議とお腹はすかなかった。しかし、景色はあの街にたどり着いたときまでと
同じように、ただただ同じ場所を歩いているかのように繰り返された。
「何かあるのかな?」
 つばさはペンダントを眺めながらつぶやいた。胸のペンダントに変化はない。
ライオンが映し出されている以外には。

 半日は歩いただろうか。目の前にキラキラ光るものが見えた。
「今度は何だ?」
 地図はただ、矢印を映し出しているだけだったが、その光る方向を示している。
2人はとにかく先を急いだ。

「わーーーっ、でっかい池!」
「こういうのは湖っていうんだよ。」
 そこには2つの小さな湖があった。キラキラ光って見えたのは、湖の水面が
太陽の光を反射していたからだ。湖の周りには、たくさんの果物がなっていた。
前にポチが持ってきてくれたものと同じだ。

「これ、ポチが持ってきてくれたのと同じだね。この世界には、ほかにも果物
あるのかなぁ。」
「…。」
 ポチは黙っていたが、しばらくして
「おいら、ここから持ってきたんだよね…。」
と、ぼそりとつぶやいた。

「えっ?!」
2人は、ほぼ同時にポチを振り返った。
「おいらも不思議に思ってさ。前に2人が眠っているときに、おいしそうな
においがするもんだから、そのにおいのする方へ行ってみたんだ。そしたら
ここに着いて…。食べたらおいしかったから、2人にも食べさせたいなって思って。
おいら3往復したんだ。」

 今まで、どれだけ歩いたのだろう。地図にだまされていたのだろうか。
2人はぺたりと座り込んだ。つばさは地図をギュッと握りしめて、湖に向かって
投げようとした。しかし、やめた。破れそうだった地図は、さらにボロボロになった。
つばさは、そのボロボロになった地図を丁寧に開いた。
「あっ…。」
 そこには、また矢印が消え、今度は『トラ』の文字があった。みらいにもポチにも
地図を見せた。しかし、当然その意味は誰にもわかるはずもなかった。

 しばらくして、みらいが立ち上がり、
「まぁ気にしてもしょうがないわよ。なるようになるわ。」
と明るく振る舞った。そして、
「それにしても、きれいなね!」
 そう言うと、少し大きめの湖の方に近づき、のぞき込んだ。

「えっ?! お母さん?」
 何とそこには、お母さんの顔が映し出されていたのだ。あわててつばさが
駆け寄ると、今度はお父さんの顔が浮かび上がった。しかし、よく見ると、
少しいつものお父さんとお母さんと感じが違う。
「こっ、これはぼく?!」

 ポチも顔を近づけると、そこには大きくなり、少し精悍な顔つきになった
犬の姿が浮かび上がった。何とこの湖は未来の自分の姿を映し出すらしい。
今度はみらいが少し小さめの湖に駆け出した。

「わっ、かわいい~。」
 つばさとポチもそちらに向かうと、幼い頃の自分の顔が映っていた。
どうやらこちらは過去を映し出すらしい。ポチの顔が映らなかったのは、
今のポチが小さいからであろう。2人はおもしろがって、あっちに行ったり、
こっちに行ったりして楽しんだ。しかし、それもしばらくの間だけだった。

「今度は『トラ』かぁ。」
 つばさは、そうつぶやいて、ゴロリと寝ころび、空を見上げた。
 そして、何分か経ったとき、
「グルグルグルッ…」
どこからともなく動物のうなり声のような音が聞こえた。
つばさはガバッと体を起こし、周りを見回した。動物の姿はどこにもない。
しかし、次の瞬間、黄色の影が湖の向こう側を横切った。

「トラ?」
 その声にみらいとポチも気づき、湖の向こう側を見た。今度ははっきり見えた。
大きなトラが舌なめずりをして、こちらをにらみつけている。
「おいらが前に来たときはいなかったよ…。」
 ポチは少し震えながらそう言った。

 トラはどんどん近づいてくる。つばさたちは湖をぐるりと回るように少しずつ、
トラから遠ざかった。トラは、少しずつ近づくスピードを上げ、つばさたちに近づいてくる。
気づいたら、つばさたちは走り出していた。当然、トラも走り出し、あっという間に
つばさたちの前に立ちはだかった。  

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2008年01月26日

4:ライオン!

 2時間以上経っただろうか。人影が少なくなり外灯が光り出した。
「あっ、日が沈む…。」
 もう1つの太陽が地平線の向こうに沈んでいく。この世界にも夜があったのだ。
 人影が無くなり、2人は公園のベンチにお互いもたれかかるように座り込んだ。
「どうする?」
「とにかく明るくなるのを待って、ライオンを探そう。こうなったら、やるだけやってみるさ。」
 つばさは、みらいを励ますようにそう言った。2人の言葉が少しずつなくなり、
まぶたが重たくなってきたその時、だしぬけにサイレンの音が鳴った。

「なっ何だ?!」
 2人は飛び起き、周りを見渡した。住宅街の向こうから炎が見えた。
「行ってみよう!」
 そう言って2人は、眠たかったことも忘れ、炎に向かって走り出した。

 2人がその現場に駆けつけた時には、たくさんの人だかりができていた。
そして、炎も激しさを増していた。

「▽◎%¥##ーーーーー!」
「@@、$%&#○■!」
「&*☆ーーー。▽◎%¥#!」

 訳の分からない叫び声が飛び交っていた。家の中には人がいるようだ。
2人はどうすることもできずに、ただ立ちつくし、炎を見上げることしかできなかった。
 突然、黒い影が2人の前を横切った。
「あっライオン!」
 あっという間の出来事だった。1匹のライオンが、ためらいもせずに炎の中に
飛び込んだ。そして、数分後、1人の男の子が助け出された。しかし、ライオンは
炎の中に取り残されたままだった…。2人はやっと出会うことができたライオンを
目の前に、どうすることもできなかった。
 その時、急に胸のペンダントの球が強い光を放ち、光の球が炎の中に飛び込んでいった。

「ウォーーーーーーーーー!」
 ライオンの雄叫びが、夜空に響き渡った。と同時に炎の固まりが、夜空に飛び出し、
金色のライオンの形に姿を変え、空高く走り去っていった。


 2人は、呆然とその様子を見ているだけだった。
 公園に戻り、少し興奮気味の2人は眠ることができなかった。

「『ライオン』って、あのライオンのことなのかなぁ…。どう思う?」
「どう思うって、わかんないよ。」
「だよね。ポチはどう思う?」
「どうって、おいらにだってわかるはずないよ。」
 つばさは、ため息をつきながら、さっき光を放ったペンダントを手に取った。

「わっ、何だこれ?!」
 ペンダントの真ん中にある球の中にライオンが浮かび上がっていたのだ。
「どういうこと?!」
 何がどうなったのか、2人には理解することができなかった。しかし、
地図を見ると再び矢印が浮かび上がり、『ライオン』の文字は消えていた。
急に疲れが2人を遅い、2人はそのままベンチに横になった。

 目を覚ましたときには、すでに一つ目の太陽が空高く昇っていた。
そして、2人は矢印に向かって歩き出した。  

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2008年01月26日

3:街の明かり!

 どのくらい時間が経ったのだろう。2人は休憩しながら、とにかく歩いた。
ドングリのような実を1粒ずつほおばりながら。しばらくすると、何だか少し
暗くなった。
「太陽が1つだけになった…。」
 空を見上げると、2つあった太陽が1つになっていた。夕方のような明るさだ。

「この世界は太陽が沈まないのかなぁ。」
「どうだろう。でも、もう驚かないよ。いちいち驚いてたら、疲れちゃうもん。」
 2人は歩き続けた。今、頼りになるのは地図だけだった。2人は歩き続ける
しかなかったのだ。気が遠くなるような道のりだった。そんな時、
「ワンワンワンワン!」
 ポチが急に吠えだした。

「あっ、明かりだ!」
 疲れてうつむいて歩いていた2人は、ポチの吠える声で顔を上げ、
目の前の街のような灯りに気がついた。
「やった~~~っ!!」
 2人は疲れていたのも忘れて走り出した。あそこに行けば何か分かるかも
知れないという思いがつばさの中に膨らんだ。しかし、この街でどんな出来事が
起こるのか、今のつばさは知るはずもなかった。

 街に着いた2人は、とにかく人を探した。街の様子は、もとの世界と変わらない
ようだ。数分歩き回ると2人の人影を発見した。2人はうれしくなって駆け寄った。
「あの~…。」
 つばさは、その1人に声をかけたが、顔を見て言葉を失った。何と顔が
ネコの顔なのだ。

「○△$#?」
 ネコの顔をした人は、何か訳の分からない言葉を話している。もう1人の顔は
ニワトリの顔だった。その2人は顔を見合わせて、不思議そうな顔をしているよう
だった。つばさとみらいは、ゆっくり後ずさりして、急に振り返ったかと思うと、
一気に駆け出した。
「わーーーーーーーーーーーーーっ!」

 もう、大抵のことでは驚かないと思っていたが、これには2人も驚いた。
「今の見た?」
「うん、見た見た。」
「ネコだよ、ネコ。」
「ニワトリもいた!」
 2人は息を切らしながら、木の陰に隠れるようにして話をした。そっとのぞくと、
ほかにも人影があった。キリン、シマウマ、サル、イヌ、カンガルー、カバ…。
みんな動物の顔だ。中でも、フクロウの顔はすごかった。首が1回転するのだ。
 2人がため息をついていると誰かが近づいてきた。今度は何だと思いながらも、
おそるおそる顔を上げると何と2人と同じ人の顔だった。2人はほっとするのと同時に、
うれしくなって話しかけようとした。しかし、

「%○◎◇、□■$$@?」
 その人もつばさとみらいには理解できない言葉だった。この世界の言葉なのだろうか。
その人は「しゃべれないの?」とでもいうように、両手を広げて首をかしげてその場を去った。

「せっかく人がいたのに、これじゃあ何も分からないよ。」
 つばさはぼやいた。みらいもポチを見つめてつぶやいた。
「動物の顔をした人が歩いて、しゃべってるならポチもしゃべれるといいのにね。」
 ポチはみらいの目を見ていた。

「うん、しゃべれるよ。」
「…。」
「え゛ーーーーーっ!」
 2人は顔を見合わせて、もう一度ポチに視線を集めた。

「何でだよ。何で言ってくれなかったんだよ。」
「だって聞かなかったじゃない。」

 2人は、もう一度顔を見合わせ、お互いのほっぺをつねった。やっぱり、
夢ではないらしい。「あっちの世界でもしゃべってたんだよね。でも、人間には
『ワン』としか聞こえないみたい。こっちに来てからはそうじゃないみたいだね。
まぁ呼ぶときは『ワン』って言ってるんだけど。」 ポチは得意気に話し出した。
しかし、こっちの世界の言葉はよく分からないようだ。違う種類の言葉らしい。
この街に来てから分かったことは、いろんな種類の人間がいること、言葉は
通じないこと、ポチがしゃべることができる世界だと言うことだ。ちなみにポチも
2本足で立つことができるらしいが、4本足で慣れてしまって面倒くさいから
2本足では歩かないらしい。しかし、この先どうしたらよいかわからなくなった。

「あっ。」
 つばさは思い出したように地図を見た。何とそこには、矢印が消え、
『ライオン』の4文字が浮かび上がっていた。
「矢印、消えちゃったね。」
 みらいものぞき込んでいた。
 矢印が無くなり、2人はどこに向かえばよいのか分からなくなった。この不思議な
地図は、『ライオン』の文字を映し出している。

「探そう…。」
 つばさはそうつぶやき、力なく歩き出した。2人はライオンの顔をした人を探すしか
なかった。しかし、ライオンはどこにも見当たらない。
 2人は必死になって探した。  

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2008年01月19日

2:その名はポチ?

 1時間は経っただろうか。歩いても歩いても同じ景色が広がっている。
どのくらい進んだのか、それとも同じ所をぐるぐる回っているだけなのか、
分からなくなってきた。分かっているのは、地図が示す矢印の方向に
進んでいることだけだった。

「お兄ちゃん。…お兄ちゃんってば!」
 みらいは何度もつばさに話しかけたが、つばさはなかなか返事をして
くれなかった。

「お兄ちゃん、何を怒ってるんだろうね、ポチ。」

「ポチ?」
「お前、今、ポチって言った?」
「そうだよ。やっと返事してくれたね。」
 みらいはうれしそうに笑った。
「なんでポチなんだよ。ふつうポチって言ったら犬につける名前だぞ。」
「だって犬だもん。」

「…。」
「えっ!お前かわいい猫って言ってたじゃん!!」
「しょうがないじゃん。あたしもはじめは猫だと思ったんだから。でも犬
 なんだよね~、ポチ。」
「ワン!」
「あ゛~。ワンってほえやがった!」

 何かに苛立っていたつばさも、みらいとのこの会話でいつもの自分を
取り戻していった。このあと2人は、ここはどこなのか、矢印の先には何
があるのかなど、ああでもない、こうでもないと話をしながら先に進んだ。
そして、さらに1時間が経っただろうか。

「あ~あ…。」
 みらいが大きなあくびをした。つばさも何だか眠くなってきた。この世界
は昼間のように明るいが、さっきまでは、家の中にいたはずで、しかも夜
だったことに2人は気づいた。もとの世界では、きっと今頃、真夜中の
はずだ。2人は寝ることに決めたが、ベッドや布団はあるはずもなく、
2人は近くにあった大きな木の下で寝ることにした。都合良く、体より
大きな葉っぱが生えていたので、それを布団の代わりにした。

 2人は10秒も待たずに、深い眠りについた。ポチの耳だけは時折り
ピクッと動いていた。


「…ワン、ワン、ワワン、ワワワン!」
 どのくらい眠っていたのだろう。2人はポチの吠える声で起きあがった。
まだ、明るい。思わず眩しくて手をかざした。しかし、次の瞬間眩しいことも
忘れて空を見上げた。

「2つ?!」
 何と太陽が2つもあったのだ。とにかく、ここはもとの世界ではない。2人は
お互いのほっぺをつまんだ。
「いててててっ。」
 夢でもない。2人は同時にため息をついた。

「んっ?」
 みらいのズボンのすそをポチが引っ張っていた。
「ポチ、どうしたの?何かあったの…、あっあんた何持ってるの?」
 なんとポチの足もとには、たくさんの果物があったのだ。
「あんた、採ってきてくれたの?」
「ポチ、でかした!」

 つばさはポチの頭をゴシゴシとなでた。ポチは少し迷惑そうな顔をしている。
そんなポチにはお構いなしに、つばさとみらいはポチが採ってきてくれた果物を
おいしそうにほおばった。どの果物も見たことのないような色や形をしていた。
しかし、2人は驚かなかった。もう、もとの世界ではないことをしっかり受け入れて
いるようだった。

 見事な食べっぷりで、2人はポチの持ってきた果物をペロリと平らげた。しかし、
ドングリのような実だけは、もしものためにカバンにしまっておいた。

「よし、行こう!」
 2人は声をそろえて立ち上がり、矢印の示す方向に向かって歩き出した。  

Posted by KENZO at 07:20Comments(2)

2008年01月12日

1:プロローグ

「おーい。早くこっちに来いよー。」
「まってよー。お兄ちゃん。」

 ある村に、2人の兄妹が家族と一緒に仲良く暮らしていました。兄のつばさは、
気が小さいけど冒険好きで、妹のみらいは、気が強く、冷静に物事を考えるしっか
り者だった。

 ある晴れた夏の日、つばさは10歳の誕生日を迎え、みんなからお祝いしてもらっ
た。彫刻家のお父さんからは、きれいな球の入ったペンダントをもらい、お医者さん
のお母さんからは、どんなケガにも効く、薬草入りのバンドエードをもらった。
「お父さん、お母さん、ありがとう。大切に使うね。」
 つばさは、ペンダントを首にぶら下げ、バンドエードをいつも持ち歩いているカバン
にしまった。
「お兄ちゃん、いいなぁ…。」
 みらいがうらやましそうにつばさを見ていた。すると、
「ほら、みらいにもプレゼントだよ。」
と、お父さんはかわいい動物をみらいに手渡した。
「かわいいねこー。」
 真っ白で小さなその動物は、みらいの目をじっと見ていた。
「これからも2人、仲良くね。」
 お母さんは優しく2人に微笑んだ。


 その夜、つばさはペンダントをニコニコしながら眺めていた。
「きれいな石だなぁ。」
 ペンダントの中心には、綺麗に透き通った球が輝いていた。しばらく眺めていると、
急にあることを思い出した。
「どこにやったかなぁ。」
 つばさはクローゼットに押し込められたおもちゃ箱を引っかき回していた。
「あったー!」
 つばさは、古ぼけた一つの箱を手に持っていた。
『10歳の誕生日が来たら、開けてごらん。』
 5歳の誕生日、旅行好きのおじいちゃんがくれた物だった。おじいちゃんが若かっ
た頃、遠い国で手に入れた物らしい。おじいちゃんは今もどこかに旅に出ている。
つばさは、はやる気持ちを抑えながら、きつく縛り付けられたひもを必死になりなが
ら、10分ほどかけてほどいた。いよいよ、箱のふたに手をかけ、そっと開けようとし
た。

「お兄ちゃーん!」
 勢いよくドアを開け、みらいがねこと一緒に飛び込んできた。つばさはびっくりして、
ベッドの下に転がっていた。
「ノックぐらいしろよ!びっくりするだろ。」
 箱だけははなさずにかかえながら、みらいを怒鳴りつけた。みらいは悪いことをし
たという様子もなく、逆に大事そうに持っている箱を見つけてニヤニヤしている。

「何それ?」
「別に…。」
「ちょうだい!」
「やだね。これはじいちゃんにもらった大事な物なの!」
「じゃあ見るだけ。」
 あまりしつこいので、つばさはみらいと一緒に箱の中を見ることにした。でも実は、
1人で見るのがちょっぴり怖かったのだ。

「さぁ、開けるぞ。」
 つばさは思い切ってふたを開けた…。
 箱の中から光があふれ出し、部屋中が光に包まれた。2人はまぶしくて目が開け
られなかった。
「わーーーーーーーーっ!」


 2人がおそるおそる目を開けると、そこには今まで見たことのない景色が広がっ
ていた。

「こ、ここはどこ?」
 最初に口を開いたのは、みらいだった。つばさは両手で箱を持ったまま、口を半
開きにして、立ちつくしていた。しばらくして我に返ったつばさは、膝を落とした。
箱が手からこぼれ、中からは今にも破れそうなボロボロの紙が出てきた。つばさ
は、呆然としながらも手を伸ばし、その紙をそっと拾い上げた。

「地図?!」
 もう、何が何だか分からなくなってきた。
「じいちゃんは、なんでこの箱をぼくなんかにくれたんだ。一体何のために…。」
 つばさは、箱を蹴り飛ばした。
「せっかくおじいちゃんがくれたのに。」
 それに気づいたみらいは、さっと箱を拾い上げてそう言った。
「お前はこの状況が分からないのか?ここは家の中じゃないんだぞ!」
「見れば分かるわよ。」
 みらいはいつも冷静だった。

「とりあえずどうする?お兄ちゃん。その紙には何て書いてあるの?」
 みらいの落ち着いているのか、何も考えていないのか分からない言葉に、つば
さは少しずつ、落ち着きを取り戻していった。じっとボロボロな紙にかいてある地図
を見ると不思議なことに気づいた。地図の真ん中にある矢印が、常に同じ方向を示
そうとして動くのだ。

「書いてある矢印が動くなんて、どういうこと?」
 みらいも地図をのぞき込んでそう言った。
「とりあえず、行ってみるか…。」
 つばさはそう言うと、地図が示す方向を目指してゆっくりと歩き出した。
「お兄ちゃん待ってよー。」
 みらいは箱をかかえ、ねこといっしょにつばさを追いかけた。こうして2人の何とも
不思議な冒険の旅がはじまったのだ。
  

Posted by KENZO at 09:09Comments(4)

2008年01月12日

まえがき

これをはじめようと思ったのは、何か新しいことをしてみようと思ったから…。

小学校3年生の国語で『サーカスのライオン』という物語が登場します。
そして、そのあと、自分で物語を作ってみましょう。という単元があります。

これからはじまる物語は、子どもたちの見本にしようと書き始めた物語です。
はじめは簡単に…。なんて思っているうちに一枚増え、また一枚と、
結局、原稿用紙60枚を超える大作になってしまいました。

そこで、時間を見つけては、子どもたちに読み聞かせをしてあげることに…。
みんな真剣に聞いてくれて毎時間楽しみにしてくれた子も。

この物語は小学生向けに書いたものですが、
せっかくですのでブログで紹介することにしたのです。

物語が進んでいくと『サーカスのライオン』の一場面が登場します。
知っている方は、それも楽しみにしていて下さい。
ただし、読み疲れてしまうかもしれませんね。

このブログを書くにあたり、著作権協会や教科書出版社に
著作権(引用文)について問い合わせをし、
大丈夫じゃないか。という回答も頂きました。

もちろん、その場面が出てきたときには、改めて紹介するつもりです。

それでは、週1回の連載と言うことで、今日からスタートします。
休日、ちょっとヒマだな、と言う方、そうでない方もお楽しみください。
楽しいかどうかは保証できませんが…。

それでは、【タイトルのない物語】、スタートです。  

Posted by KENZO at 09:01Comments(4)